すべての企業が対象!新リース会計基準による財務諸表への影響と実務対応のポイント

2026年度から順次適用が開始される「新リース会計基準」は、国際的な会計基準であるIFRS第16号との整合性を図るもので、リース契約を締結しているほぼすべての企業が実務対応を迫られます。本記事を読めば、新リース会計基準の基本から、財務諸表(BS・PL)への具体的な影響、そして今から準備すべき実務対応のポイントまで、網羅的に理解できます。結論として、最大の変更点はこれまでオフバランス処理が可能だったオペレーティングリースも、原則として「使用権資産」と「リース負債」を計上するオンバランス処理が必要になる点です。この変更がEBITDAなどの財務指標に与える影響や、中小企業も対象となるのか、といった実務上の疑問点についても分かりやすく解説します。

目次

新リース会計基準とは 2026年適用に向けた基本を解説

2023年5月、企業会計基準委員会(ASBJ)は「リースに関する会計基準(案)」を公表しました。これが一般に「新リース会計基準」と呼ばれるもので、日本のリース会計に大きな変革をもたらします。これまで費用処理(オフバランス)が認められていた多くのリース契約が、原則としてすべて資産・負債として貸借対照表(BS)に計上(オンバランス化)されることになるのが最大の特徴です。この変更は、企業の財務実態をより正確に投資家などに開示することを目的としており、すべての企業にとって無関係ではありません。2026年度からの強制適用に向けて、今からその基本を正しく理解し、準備を進めることが不可欠です。

なぜリース会計基準は改正されたのか IFRS第16号との関連性

今回のリース会計基準改正の最も大きな背景は、国際的な会計基準とのコンバージェンス(収斂)です。具体的には、国際財務報告基準(IFRS)の「IFRS第16号『リース』」や米国会計基準(US GAAP)に合わせる形で、日本基準との差異を解消する目的があります。

従来の日本の会計基準では、リース契約は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類され、後者は賃貸借処理として費用計上するのみでした。これにより、多額のオペレーティング・リース契約を抱える企業(例:航空会社、大手小売業など)では、実質的な負債が貸借対照表に計上されず、投資家が企業の財政状態を正確に把握することが困難であるという問題点が指摘されていました。新リース会計基準は、このような「隠れた負債」をなくし、財務諸表の透明性と国際的な比較可能性を高めるために導入されるのです。

新リース会計基準の適用時期はいつから?

新リース会計基準の適用時期は、原則適用と早期適用が認められています。自社がいつから対応すべきかを正確に把握しておくことが重要です。3月決算の企業を例にすると、以下のようになります。

適用区分適用開始時期対象となる会計年度(3月決算企業の場合)
原則適用2026年4月1日以後開始する会計年度の期首から2027年3月期から
早期適用2024年4月1日以後開始する会計年度の期首から2025年3月期から

原則適用まで時間はまだあるように見えますが、対象となるリース契約の洗い出しやシステム対応には相応の準備期間が必要です。特にリース契約が多い企業は、早期にプロジェクトを立ち上げ、計画的に準備を進めることが求められます。

対象となる企業とリースの範囲

新リース会計基準は、上場企業や会社法上の大会社だけでなく、原則としてすべての企業が対象となります。ただし、中小企業の会計処理については、別途「中小企業の会計に関する指針」などでの対応が検討される可能性がありますが、現時点では未定です。会計監査を受ける企業は、適用に向けて準備を進める必要があります。

また、対象となる「リース」の範囲も重要です。新基準では、リースを「原資産を使用する権利を一定期間にわたり対価と交換に移転する契約、又は契約の一部分」と定義しています。これにより、これまでのリース契約だけでなく、不動産の賃貸借契約や、特定のサーバーを専有的に利用するサービス契約なども「リース」に該当する可能性があります。契約書の名称が「賃貸借契約」や「業務委託契約」であっても、その経済的実態がリースの定義を満たす場合は、新基準に沿った会計処理が必要となるため、契約内容の精査が不可欠です。

従来基準との違いは?新リース会計基準の3つの重要変更点

従来基準との違い:新リース会計基準の3つの重要変更点 現行基準(借手) 分類:ファイナンス・リース/オペレーティング・リース ファイナンス・リース オンバランス 資産・負債計上 オペレーティング・リース オフバランス 費用処理 新リース会計基準(借手) 変更点1:すべてのリースを原則オンバランス化(単一モデル) すべてのリース(短期・少額を除く) 単一モデルで処理 オンバランス(原則) 使用権資産 Asset リース負債 Liability 例:複合機・社用車などもBSに反映 変更点3:例外規定 ・短期リース(12ヶ月以内) ・少額リース オフバランス選択可 選択時:支払リース料を費用として計上 貸手の会計処理(変更小) 変更点2:現行と同様に、ファイナンス/オペレーティングに 分類し、それぞれの性質に応じた処理を継続 ファイナンス・リース オペレーティング・リース

2026年4月以降に開始する事業年度から適用される新リース会計基準は、特に「借手」の会計処理に大きな変革をもたらします。従来、多くの企業で費用処理(オフバランス)されてきたリース契約が、原則として資産・負債計上(オンバランス)の対象となるためです。ここでは、実務に最も影響を与える3つの重要な変更点を、従来基準と比較しながら具体的に解説します。

変更点1 すべてのリースを原則オンバランス化

新リース会計基準における最大の変更点は、借手が行うすべてのリース取引について、原則として貸借対照表(BS)への計上が求められる点です。これにより、これまで費用として処理していた多くのリース契約が、企業の資産と負債を同時に増加させる要因となります。

オペレーティングリースとファイナンスリースの区別が廃止

現行の会計基準では、リース取引は「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」の2つに分類されていました。ファイナンス・リースは実質的な資産の売買とみなされ資産・負債として計上(オンバランス)される一方、オペレーティング・リースは通常の賃貸借取引として扱われ、支払リース料を費用として計上するのみ(オフバランス)でした。

新リース会計基準では、借手の会計処理においてこの2つの区分が廃止されます。代わりに、短期・少額の例外を除いたすべてのリース契約をBSに計上する「単一の会計処理モデル」が採用されます。これは、投資家などが企業の財務実態をより正確に把握できるよう、国際的な会計基準(IFRS第16号)との整合性を図るための変更です。

項目現行基準新リース会計基準
リースの分類ファイナンス・リースとオペレーティング・リースに分類原則としてすべてのリースを単一モデルで処理(区別を廃止)
ファイナンス・リースの処理オンバランス(リース資産・リース負債を計上)オンバランス(使用権資産・リース負債を計上)
※例外規定あり
オペレーティング・リースの処理オフバランス(支払リース料を費用計上)

使用権資産とリース負債を新たに計上

新基準の適用により、借手はリース契約の開始日に、貸借対照表の資産の部に「使用権資産」、負債の部に「リース負債」を計上する必要があります。

  • 使用権資産:リース期間にわたり、対象となる資産(原資産)を使用する権利。
  • リース負債:未払のリース料総額を、契約時に定められた割引率などを用いて現在価値に割り引いて算出した金額。

この会計処理により、これまでBSに現れていなかったコピー機の複合機や社用車などのオペレーティング・リース契約も、資産と負債の両建てで計上されることになります。結果として、企業の総資産が膨らみ、自己資本比率などの財務指標に影響を与える可能性があります。

変更点2 貸手の会計処理は大きな変更なし

借手の会計処理が大きく変わる一方で、リース会社など「貸手」側の会計処理については、現行基準から大きな変更はありません。

貸手は引き続き、リース取引を「ファイナンス・リース」と「オペレーティング・リース」に分類し、それぞれの性質に応じた会計処理を行います。そのため、貸手側の企業にとっては、新基準適用による実務上のシステム変更や業務フローの見直しの負荷は比較的小さいと言えるでしょう。

変更点3 例外規定 短期リースと少額リースの取扱い

新リース会計基準では、原則としてすべてのリースをオンバランス化しますが、実務上の負担を考慮した例外規定も設けられています。以下の「短期リース」または「少額リース」に該当する場合、企業はオンバランス処理を行わず、従来通り支払リース料を費用として計上する簡便的な会計処理(賃貸借処理)を選択できます。

例外規定対象となるリースの概要選択可能な会計処理
短期リースリース開始日時点で、リース期間が12ヶ月以内であるリース。購入オプションが付いている場合は対象外となる可能性があります。支払リース料を費用として計上(オフバランス処理)
少額リースリース対象となる原資産そのものが少額であるリース。金額の具体的な基準は今後の実務指針で明確化される見込みですが、IFRS第16号で例示されている5,000米ドル相当額がひとつの目安とされています。

この例外規定を適用するかどうかの判断は、個々のリース契約ごとに行うことができます。したがって、企業は自社のリース契約をすべて洗い出した上で、どの契約に例外規定を適用するかを会計方針として決定する必要があります。

新リース会計基準が財務諸表(BS・PL)に与える影響

新リース会計基準の影響(BS・PL・指標) 凡例 使用権資産(資産) リース負債(負債) その他資産 その他負債 自己資本 支払リース料(旧基準) 貸借対照表(BS):オンバランス化により総資産・負債が増加 資産 負債+資本 従来基準 その他資産 自己資本 その他負債 使用権資産:なし 資産 負債+資本 新リース会計基準 使用権資産 リース負債 その他資産 自己資本 その他負債 総資産 ↑ 負債 ↑ 損益計算書(PL):支払リース料 → 減価償却費+支払利息(初期に厚く後期に薄い) 費用区分の表示(単年度イメージ) 従来 支払リース料(営業費用) 新基準 支払利息(営業外) 減価償却費 営業利益 ↑ 年次費用の推移(リース期間) 期間 旧基準:定額(支払リース料) 新基準:前半厚く後半薄い EBITDA(見かけ上) 従来 新基準 ↑ EBITDA 増加

新リース会計基準の適用は、特にこれまで多くのリース契約をオペレーティング・リースとしてオフバランス処理してきた企業にとって、財務諸表の見た目を大きく変えるインパクトがあります。ここでは、貸借対照表(BS)、損益計算書(PL)、そして主要な財務指標にどのような影響が及ぶのかを具体的に解説します。

貸借対照表(BS)への影響 総資産と負債の増加

新リース会計基準が貸借対照表(BS)に与える最も大きな影響は、これまでBSに計上されていなかったオペレーティング・リースが資産・負債として計上される(オンバランス化)ことです。

具体的には、借手企業はリース期間にわたってリース資産を使用する権利を「使用権資産」として資産の部に、将来のリース料支払義務を「リース負債」として負債の部に、それぞれ計上する必要があります。これにより、BSは以下のように変化します。

従来基準(オペレーティング・リース)新リース会計基準
資産の部計上なし「使用権資産」を計上(資産増加)
負債の部計上なし「リース負債」を計上(負債増加)

この結果、企業の総資産と負債がともに増加します。特に、店舗やオフィス、大型の機械設備などをオペレーティング・リースで多数契約している小売業や航空業、製造業などでは、BSが大きく膨らむ可能性があります。総資産が増加するため、自己資本比率(自己資本÷総資産)やROA(総資産利益率)といった財務指標が悪化する可能性がある点には注意が必要です。

損益計算書(PL)への影響 支払リース料から減価償却費と支払利息へ

損益計算書(PL)においても、費用の計上方法が大きく変わります。従来、オペレーティング・リースの費用は「支払リース料」として、リース期間にわたって定額で計上されるのが一般的でした。

新リース会計基準では、この支払リース料という費目がなくなり、代わりに「使用権資産の減価償却費」と「リース負債に係る支払利息」の2つを費用として計上します。

従来基準(オペレーティング・リース)新リース会計基準
費用項目支払リース料減価償却費 + 支払利息
費用計上額原則として定額リース期間の初期に大きく、後期に小さくなる(費用が前倒しになる)
費用区分販売費及び一般管理費など減価償却費(販管費など)+ 支払利息(営業外費用)

支払利息はリース負債の残高に利子率を乗じて計算されるため、残高の大きいリース期間の初期ほど金額が大きくなります。その結果、減価償却費と支払利息の合計額は、リース期間の前半に厚く、後半に薄くなる傾向があります。これは、従来の定額計上と比べて、適用初年度の利益を圧迫する要因となり得ます。

また、費用が減価償却費と支払利息に分解されることで、営業利益の段階では支払利息が含まれなくなるため、営業利益が増加する効果も考えられます。

EBITDAなど主要な財務指標への影響

BSとPLの表示が変わることで、企業の財務分析に用いられる主要な経営指標にも影響が及びます。

特に注目されるのが、企業の収益力を示す指標の一つであるEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)です。EBITDAは一般的に「営業利益+減価償却費」で算出されます。新基準では、従来の支払リース料(営業費用)が、減価償却費と支払利息(営業外費用)に変わります。これにより、EBITDAの計算式に当てはめると以下のようになります。

  • 従来の支払リース料:営業利益を押し下げる要因であり、EBITDAの計算には直接影響しない。
  • 新基準の減価償却費:営業利益を押し下げるが、EBITDAの計算時に足し戻される。
  • 新基準の支払利息:営業外費用であり、営業利益に影響しない。

結果として、会計処理の変更だけで、企業のキャッシュ・フロー創出能力が変わらないにもかかわらず、EBITDAは増加することになります。これは、設備投資の意思決定や企業価値評価(バリュエーション)に影響を与える可能性があるため、財務諸表の利用者も、作成者も、この見かけ上の変化を正しく理解しておくことが重要です。

その他、影響を受ける可能性のある主要な財務指標を以下にまとめます。

財務指標影響理由
自己資本比率低下分母である総資産が増加するため。
負債比率上昇負債が増加するため。
総資産利益率(ROA)低下分母である総資産が増加するため。
営業利益増加費用が減価償却費と営業外費用の支払利息に分解されるため。

企業が今から始めるべき実務対応の5ステップ

企業が今から始めるべき実務対応の5ステップ(新リース会計) 2026年の新リース会計基準適用に向けて、企業が進める5つの実務ステップを示す縦型ロードマップ図。洗い出し、会計方針、業務フローとシステム、影響額試算、初年度処理の順に並ぶ。 企業が今から始めるべき実務対応の5ステップ 2026年 適用開始へ 1 全社的なリース契約の洗い出し・管理 ・支店・事業部・子会社まで網羅的に把握/・管理台帳を整備し一元管理 2 会計方針の決定(原則法と簡便法) ・短期・少額リースの例外適用を検討/・基準額と範囲を監査人と合意 3 業務フローとシステムの再構築 ・標準プロセスを設計し統制を強化/・会計・リース管理システムを対応 4 影響額の試算と関係者への説明 ・BS/PL/EBITDAの変動を数値化/・財務制限条項への影響を確認 5 新リース会計基準適用初年度の会計処理 ・経過措置を選択し期首残高を整備/・注記・比較情報の開示準備 ポイント 全社プロジェクト体制で早期に方針決定 → システム対応と影響試算 → 初年度処理と開示準備まで一気通貫 短期・少額の例外や経過措置の選択は、監査人と協議して自社に最適化

新リース会計基準の適用は、すべての企業にとって重要な経営課題です。特にこれまで多くのリース契約をオフバランス処理してきた企業にとっては、財務諸表への影響が大きくなる可能性があります。ここでは、2026年の適用開始に向けて、企業が今から計画的に進めるべき実務対応を5つのステップに分けて具体的に解説します。

ステップ1 全社的なリース契約の洗い出しと管理

新リース会計基準への対応は、まず自社に存在するすべてのリース契約を正確に把握することから始まります。これまで費用処理していたオペレーティング・リースも資産・負債の計上対象となるため、本社だけでなく、各支店や事業部、子会社に散在する契約を網羅的に洗い出すことが不可欠です。

具体的には、コピー機やPC、サーバーといったIT機器、社用車やフォークリフトなどの車両、そしてオフィスや店舗、倉庫といった不動産の賃貸借契約などが対象となります。契約書の名称が「リース」でなくても、特定の資産を一定期間使用する権利を得て対価を支払う契約は、実質的にリースに該当する可能性があるため注意が必要です。

洗い出した契約については、以下の項目を含む管理台帳を作成し、一元管理できる体制を構築しましょう。

管理項目内容
契約情報契約番号、契約部署、リース会社(貸手)、契約締結日
リース物件情報物件の種類(不動産、車両、IT機器など)、物件名、数量
リース期間リース開始日、リース終了日、解約不能期間
リース料情報リース料総額、月額リース料、支払スケジュール、固定/変動の別
オプション情報購入オプション、更新オプション、解約オプションの有無と条件
その他維持管理費用などリース料以外の支払額、契約書保管場所

ステップ2 会計方針の決定 原則法と簡便法の選択

リース契約の全体像が把握できたら、次に自社の会計方針を決定します。新リース会計基準では、すべてのリースを資産・負債計上する「原則法」が基本となりますが、実務上の負担を軽減するための「簡便法」や「例外規定」の適用も検討します。

特に重要なのが、第3章で解説した「短期リース」と「少額リース」の例外規定を適用するかどうかの判断です。これらの例外規定を適用すれば、対象となるリースを従来通り費用処理できるため、経理業務の負担を大幅に削減できます。

ただし、少額リースの基準となる金額をいくらに設定するか、また、簡便的な取扱いをどの範囲まで適用するかといった判断は、企業の規模やリース契約の実態、財務戦略によって異なります。会計監査人とも協議の上、自社にとって最適な会計方針を早期に決定することが重要です。この方針決定が、後のステップであるシステム対応や影響額の試算の前提となります。

ステップ3 業務フローとシステムの再構築

決定した会計方針に基づき、新たな会計処理に対応するための業務フローとITシステムを再構築します。新基準では、リース契約の締結から資産計上、減価償却、利息計算、支払処理、契約満了時の処理まで、一連の管理が必要となります。

特にリース契約数が多い企業では、Excelなど手作業での管理には限界があり、会計システムや専門のリース管理システムの導入・改修が必須となるでしょう。

業務フローの見直しポイント

  • リース契約の申請・承認プロセスの見直し(会計部門との連携強化)
  • 契約情報(特にリース期間やリース料の見積り)を正確に収集する仕組みの構築
  • 使用権資産とリース負債の計算・計上プロセスの標準化
  • 契約変更や中途解約時の会計処理プロセスの整備

システム対応の検討ポイント

  • 既存の会計システムや固定資産管理システムでの対応可否の確認
  • アドオン開発やシステム改修の要件定義と費用対効果の検証
  • クラウド型のリース管理システムの導入検討
  • システム導入・改修に伴うデータ移行計画の策定

これらの見直しは、経理部門だけでなく、契約を主管する各事業部門や情報システム部門を巻き込んだ全社的なプロジェクトとして進める必要があります。

ステップ4 影響額の試算と関係者への説明

新リース会計基準の適用が、自社の財務諸表や経営指標にどの程度のインパクトを与えるのかを事前に把握することは極めて重要です。ステップ1で作成したリース契約リストとステップ2で決定した会計方針をもとに、影響額のシミュレーション(試算)を行います。

試算により、貸借対照表(BS)における総資産と負債の増加額や、自己資本比率の低下度合いを具体的に数値で把握します。また、損益計算書(PL)においても、支払リース料が減価償却費と支払利息に変わることで、営業利益やEBITDA(利払前・税引前・減価償却前利益)がどのように変動するかを確認します。

この試算結果は、社内外のステークホルダーへの説明責任を果たすための基礎資料となります。特に金融機関との間で財務制限条項(コベナンツ)を含む融資契約を締結している場合、負債の増加や自己資本比率の低下が契約に抵触するリスクがないか、事前に確認し、必要に応じて協議を行う必要があります。 経営層や株主、投資家に対しても、会計基準の変更による見かけ上の変化であり、企業のキャッシュ・フローや実質的な返済能力に変動はないことを丁寧に説明する準備が求められます。

ステップ5 新リース会計基準適用初年度の会計処理

最後のステップは、適用初年度における具体的な会計処理の準備です。新基準を適用する際には、過去のすべてのリース契約に遡って新基準を適用する「原則的な方法」のほかに、実務負担を軽減するための「経過措置」が設けられる見込みです。

例えば、適用開始日に存在するリース契約について、その時点の残りのリース期間とリース料に基づいて使用権資産とリース負債を計上するといった、簡便的な方法が選択できる可能性があります。どの経過措置を選択するかによって、適用初年度の期首残高や比較情報の表示方法が異なるため、自社の状況に最も適した方法を会計監査人と相談の上で選択します。

また、適用初年度には、新たな会計基準の適用に関する注記情報の開示も必要となります。採用した会計方針や経過措置の内容、財務諸表への具体的な影響額などを正確に開示できるよう、事前に準備を進めておくことが重要です。

【Q&A】新リース会計基準に関するよくある質問

新リース会計基準の適用にあたり、多くの企業担当者様から寄せられる疑問について、Q&A形式で分かりやすく解説します。自社の状況と照らし合わせながら、実務対応の参考にしてください。

中小企業も新リース会計基準の対象ですか?

はい、原則として、上場企業だけでなく、すべての中小企業も新リース会計基準の適用の対象となります。これまでオペレーティング・リースとして費用処理していた契約も、資産・負債として計上する必要が出てきます。

ただし、会社法上の会計監査人設置会社以外の非公開会社などでは、「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」を適用することが認められています。これらの指針を適用している場合、従来通りの賃貸借処理を継続できる可能性があります。

しかし、金融機関からの融資審査や、将来的なM&A、上場(IPO)を視野に入れている場合は、たとえ中小企業であっても新リース会計基準に準拠した財務諸表の作成を求められるケースが想定されます。自社の事業戦略や利害関係者との関係性を踏まえ、どの会計基準を適用すべきか、顧問の公認会計士や税理士といった会計専門家に相談の上、慎重に判断することが重要です。

Excelでのリース資産管理は可能ですか?

リース契約の件数が非常に少ない場合、Excelやスプレッドシートでの管理も不可能ではありません。しかし、新リース会計基準の適用に伴い、管理すべき項目が大幅に増加・複雑化するため、多くの企業にとってExcelでの管理は現実的ではないと考えられます。

Excel管理には、以下のようなデメリットやリスクが伴います。

  • ヒューマンエラーの発生:手作業での入力や計算が多くなるため、入力ミスや計算間違い、数式の誤りといったヒューマンエラーが発生しやすくなります。
  • 業務の属人化:特定の担当者しか分からない複雑な管理ファイルになりがちで、担当者の異動や退職の際に引継ぎが困難になる「属人化」のリスクがあります。
  • 契約変更への対応の煩雑さ:契約期間の延長や解約、料率の変更などがあった場合、関連するすべての計算を正確に修正する必要があり、非常に手間がかかります。
  • 内部統制上の課題:誰でも簡単に数値を変更できてしまうため、データの正確性や網羅性を担保することが難しく、内部統制上の脆弱性につながる可能性があります。

これらのリスクを回避し、業務を効率化するためには、リース資産管理に特化したシステムの導入を検討することをおすすめします。会計システムと連携できる製品も多く、決算業務の負担を大幅に軽減することが可能です。

経過措置について教えてください

新リース会計基準を初めて適用する際には、実務上の負担を軽減するための「経過措置」が認められています。企業は、自社の状況に応じて原則的な方法か、簡便的な方法のいずれかを選択することができます。

主な選択肢は以下の2つです。

項目原則的な取扱い(遡及適用)簡便的な取扱い(修正遡及アプローチ)
概要過去の財務諸表を新基準が適用されていたかのように修正し、再表示する方法。適用初年度の期首に、新旧基準の差額(累積的影響額)を利益剰余金に一括で加減算する方法。
過去の財務諸表修正・再表示する修正しない
財務諸表の比較可能性高い(過去の数値も新基準で表示されるため)低い(適用初年度前後で基準が異なるため)
実務負担大きい(過去の全リース契約を遡って計算する必要がある)比較的小さい

原則的な取扱いは、財務諸表の期間比較可能性を確保できるというメリットがありますが、過去の契約すべてについて遡って計算し直す必要があり、非常に大きな実務負担がかかります。一方、簡便的な取扱いは、過去の財務諸表を修正する必要がなく、適用初年度の期首時点での調整で済むため、実務負担を大幅に軽減できます。

多くの企業では、実務負担の観点から簡便的な取扱い(修正遡及アプローチ)を選択することが想定されています。ただし、どちらの経過措置を選択するかによって財務諸表に与える影響が異なるため、利害関係者への説明も考慮し、自社にとって最適な方法を選択する必要があります。

まとめ

本記事では、2026年4月1日以後開始する事業年度から適用される新リース会計基準の概要、財務諸表への影響、そして企業が取るべき実務対応について解説しました。この会計基準改正の最大のポイントは、国際的な会計基準であるIFRS第16号との整合性を図るため、これまでオフバランス処理が可能だったオペレーティング・リースを含め、原則としてすべてのリースを貸借対照表に資産(使用権資産)と負債(リース負債)として計上する「オンバランス化」が求められる点です。

この変更により、企業の貸借対照表では総資産と負債が増加し、自己資本比率などの財務指標に影響が及びます。また損益計算書上では、費用が従来の「支払リース料」から「減価償却費」と「支払利息」に変わるため、EBITDAなどの利益指標も変動する可能性があります。

適用開始まで時間はありますが、全社的なリース契約の洗い出しや管理方法の見直し、会計方針の決定、システム対応など、準備すべき項目は多岐にわたります。特に多くのリース契約を抱える企業にとっては、影響額の試算と関係者への説明も不可欠です。本記事で紹介した実務対応のステップを参考に、計画的な準備を早期に開始し、新基準へスムーズに移行しましょう。

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